岐阜大 アニキのタント
油脂の分野では,特に計算問題が多く出題されます。
油脂の計算問題は,けん化価,ヨウ素価がわかれば大丈夫だと思っている人が多いのですが,
実際には,これらを絡めて最終的には油脂の分子式や油脂を構成する高級脂肪酸の示性式を求めさせる問題が多く出題されています。
したがって,代表的な高級脂肪酸であるパルミチン酸,ステアリン酸,オレイン酸,リノール酸,リノレン酸の示性式・C=Cの数は,必ず覚えていなければいけません。
☆下記が実際に出題されている過去問題です。
挑戦してみてください。
■名古屋市立大学 (2011 薬 一部改)
油脂に関する以下の問いに答えよ。必要があれば次の原子量を用いよ。H=1.0, C=12, O=16
ある油脂A(分子量886)を構成する脂肪酸は,直鎖の飽和脂肪酸Bと,直鎖の不飽和脂肪酸Cであった。ただし不飽和脂肪酸Cは炭素-炭素間の三重結合を含まないものとする。油脂A22.15gに触媒を用いて水素を完全に付加させたところ,標準状態で1.12Lの水素が付加した。この水素付加反応により生成した油脂Dを水酸化ナトリウム水溶液で加水分解したのち,塩酸で酸性にしたところ,生成した脂肪酸は飽和脂肪酸Bのみであった。
問1.油脂A1分子中に含まれる炭素-炭素間の二重結合の数を求めよ。
問2.油脂Aを構成する不飽和脂肪酸Cとして,可能な示性式をすべて示せ。
■北海道大学 (2011 後期 工 獣医 水産 農 薬 理 )
油脂に関する以下の問いに答えよ。必要があれば次の原子量を用いよ。H=1.0, C=12.0, O=16.0,Na=23.0
動植物の体内に存在する油脂は,高級脂肪酸とグリセリン(1,2,3-プロパントリオール)が縮合したエステル(トリグリセリド)である。1種類のトリグリセリドからなる油脂G4.16gを完全に加水分解するために,1.00mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液を15.0mL必要とした。この反応溶液に塩酸を加え十分に酸性にしてからエーテルで抽出したところ,不飽和脂肪酸Hと飽和脂肪酸Jのみが得られた。一方,G4.16gをニッケル触媒を用いて水素と反応させたところ,標準状態で112mLの水素が付加し,油脂Kが得られた。さらにKを水酸化ナトリウム水溶液を用いて完全に加水分解した後,反応溶液に塩酸を加え十分に酸性にしてからエーテルで抽出したところ,ステアリン酸(C17H35COOH)とJのみが得られた。
問1 油脂Gの分子量を有効数字3桁で記せ。
問2 Hの物質量とJの物質量の比を整数で記せ。
問3 脂肪酸HとJの示性式を例にならって記せ。
■富山大学 (2010 工 理 )
油脂に関する以下の問いに答えよ。必要があれば次の原子量を用いよ。H=1.0, C=12.0, O=16.0,K=39.0, Br=80.0
問1 油脂は炭素原子数の多い脂肪酸とグリセリンのエステルである。水酸化カリウムによる油脂のけん化の化学反応式を書け。ただし,油脂1分子を構成する3分子の脂肪酸は,R-COOH, R'-COOHおよび R''-COOHとせよ。
問2 ある油脂(分子量880)は,炭素原子数が18個の飽和脂肪酸2分子と,炭素原子数が18個の不飽和脂肪酸1分子と,グリセリンとのエステルであった。また,この不飽和脂肪酸の二重結合は, カルボキシル基の炭素原子を1番目とすると,9番目と10番目の炭素原子間に一個あり,その配置はシス形であった。この油脂1gをけん化するのに必要な水酸化カリウムは何gか。小数点第2位まで求めよ。
問3 この油脂のけん化により得られる不飽和脂肪酸1gに付加できる臭素は何gか。小数点第2位まで求めよ。
■筑波大学 (2011 医 情報 人間 生命環境 理工)
油脂に関する以下の問いに答えよ。
必要があれば,次の値を用いよ。 原子量 H=1.00, C=12.0, O=16.0, K=39.1
油脂を完全にけん化するのに必要な水酸化カリウムの質量から,油脂を構成する脂肪酸の平均分子量を求める方法もある。
問 下線部に関して,ある油脂1.00gを完全にけん化するのに水酸化カリウムが0.193g必要であった。次の問に答えよ。ただし,この油脂を構成する脂肪酸は1種類のみとする。
(ⅰ) この油脂を完全にけん化することにより生じるアルコールの構造式を示せ。
(ⅱ) この油脂の分子量を有効数字3桁で求めよ。
(ⅲ) この油脂を構成する脂肪酸の分子量を有効数字3桁で求めよ。
■神戸大学 (2012 発達科 理 医 工 農 海事科)
必要があれば,次の値を用いよ。 原子量 H=1.00, C=12.0, O=16.0
廃食用油などの油脂を有効利用して,セッケンやバイオディーゼル燃料がつくられている。
油脂に水酸化ナトリウム水溶液を加えて加熱すると,油脂はけん化されて,高級脂肪酸のナトリウム塩(セッケン)とグリセリン(1,2,3-プロパントリオール)が生じる。油脂1molのけん化には水酸化ナトリウムが ア mol必要である。一定質量の油脂をけん化する場合,油脂の分子量が イ ほど必要な水酸化ナトリウムの量は少なくなる。セッケンは ウ 酸と エ 塩基の塩であるため,水中で一部が加水分解して オ 性を示す。また,セッケンの水溶液に塩酸を加えると白濁する。
一方,水酸化ナトリウムを触媒として油脂とメタノールを反応させると,高級脂肪酸のメチルエステルとグリセリンが生じる。この脂肪酸メチルエステルはバイオディーゼル燃料とよばれ,軽油の代替品として使用することができる。
天然の油脂を構成する不飽和脂肪酸は炭素原子間の二重結合の部分で分子が折れ曲がっているが,飽和脂肪酸は分子の形が直線状である。このため,飽和脂肪酸は分子どうしが並びやすく, カ 力が大きい。したがって,構成脂肪酸に飽和脂肪酸が多く含まれる油脂は室温で固体のものが多いが,不飽和脂肪酸の割合が多い油脂は室温で キ のものが多い。
問1 空欄 ア ~ キ にあてはまる適切な語句または数字を記入しなさい。
問2 ある油脂43.9gをすべて脂肪酸メチルエステルに変換するのに,メタノール4.80gが必要であった。この油脂は同一の脂肪酸のみから構成され,脂肪酸には炭素原子間に二重結合が2つ存在する。
(1) 油脂の分子量を有効数字3けたで求めなさい。
(2) 油脂を構成する脂肪酸R-COOHのR-をCmHn-としたとき,m,nの値を求めなさい。
■信州大学 (2013 理 一部改)
必要があれば,次の値を用いよ。 原子量 H=1.00, C=12.0, O=16.0, Na=23.0
食用油やバターは油脂とよばれる成分からできており,油脂はグリセリンと脂肪酸が反応して生成する。油脂は,グリセリンの[ a ]基と脂肪酸の[ b ]基から水分子がとれた[ c ]である。脂肪酸には炭化水素基が単結合のみで構成される[ d ]と二重結合が1つ以上含まれる[ e ]がある。
この油脂からセッケンをつくることができる。セッケンは汚れを落とす目的で広く用いられる生活用品であり,一般的にはパルミチン酸ナトリウムやステアリン酸ナトリウムなど,炭化水素鎖の比較的長い脂肪酸の[ f ]が用いられる。炭化水素鎖の長い脂肪酸は[ g ]とよばれる。セッケンは炭化水素基が[ h ],イオン部位が[ i ]となっていて,水と油の両方になじむ性質をもつ。セッケンを水に溶かすと,ある濃度以上で多数の分子が集合して水和しやすい構造体をつくる。このような構造体をはじめとする直径1~100nm程度の粒子を総称してコロイド粒子とよぶ。コロイド粒子が関係する現象としてはチンダル現象が有名である。
実際にセッケンをつくってみよう。①油脂と水酸化ナトリウムを加熱しながら混合すると,脂肪酸の[ f ]が生成するが,そのままでは固体としては得られない。多量の電解質を加えれば,白色の沈殿としてセッケンをつくることができる。
(1) [ a ]~[ i ]に適切な語句を記入せよ。
(2) 下線部①の過程5.00×10-2molの油脂から生成するセッケンの質量を,有効数字3桁で求めよ。計算過程も記せ。けん化反応が完全に進行するとして,生成したセッケンの分子式はC15H31COONaのみとする。
■山形大学 (2012 理工 )
油脂に関する以下の問いに答えよ。必要があれば次の原子量を用いよ。H=1.0, C=12, O=16,Na=23
計算結果は有効数字2桁で示せ。
水酸化ナトリウム水溶液を用いて,油脂を完全にけん化したところ,単一の分子式C14H27O2Naを有するセッケン25gが得られた。油脂の質量を求めなさい。
■埼玉大学 (2013 後期日程 理 工 一部改)
必要があれば,次の値を用いよ。 原子量 H=1.0, C=12.0, O=16.0
脂質は単純脂質と複合脂質に分類され,①単純脂質には油脂がある。油脂は3価アルコールであるグリセリン1分子に脂肪酸3分子がエステル結合したもので,エステルの一種である。
下線部①に関連して,分子量1096の油脂137gに含まれる,すべての炭素-炭素二重結合に水素を付加させるには,標準状態の水素が5.6L必要であった。この油脂1分子中には何個の炭素-炭素二重結合が含まれているか答えよ。また,計算過程も示せ。ただし,油脂の不飽和結合は二重結合のみとする。
■弘前大学 (2012 後期 教育 理工 農学生命 )
油脂に関する以下の問いに答えよ。必要があれば次の原子量を用いよ。H=1.00, C=12.0, O=16.0,I=126.9
〔Ⅰ〕 油脂は〔 a 〕と高級脂肪酸の〔 b 〕である。動物や植物に含まれる油脂には,常温で固体の〔 c 〕と,液体の〔 d 〕がある。動物性油脂には,一般に〔 e 〕が多く含まれており,一方,植物性油脂は〔 f 〕を多く含む。
問1 〔 〕内のaからfに適切な語を入れよ。
問2 リノール酸に含まれる炭素原子間の二重結合の数は何個かを記せ。
問3 オレイン酸のみを含む油脂Dとリノレン酸のみを含む油脂Eがある。油脂DおよびEの分子量を求めよ。計算の過程も合わせて示せ。
問4 油脂の中にはヨウ素により付加反応を受けるものがある。100gの油脂に対して付加するヨウ素の質量をグラム単位で表した数値をヨウ素価という。油脂Eのヨウ素価を求めよ。
計算の過程も合わせて示せ。
問5 油脂Dのヨウ素価は油脂Eのそれよりも高いか,それとも低いか。その理由も合わせて記せ。
■熊本大学 (2013 理 医 薬 工)
必要があれば,次の値を用いよ。 原子量 H=1.0, C=12, O=16
油脂は高級脂肪酸と ア のエステルである。油脂には,常温で固体である イ と,液体である ウ がある。 ウ に触媒を用いて水素を付加させると,固体の エ に変わる。植物油からこの方法で製造された エ が,マーガリンの主材料になっている。油脂に水酸化ナトリウム水溶液を加えて加熱すると,油脂はけん化されて,高級脂肪酸のナトリウム塩であるセッケンと ア になる。セッケンは,分子内に長い炭化水素基からなる オ 部分と,電荷を帯びた カ 部分をもつ。
問1 文中の ア ~ カ に適切な語句を入れよ。
問2 常温で固体である油脂と液体である油脂について,それぞれの油脂を構成する高級脂肪酸の違いを説明せよ。
問3 炭素数が16である1種類の高級脂肪酸を構成成分とする油脂の分子量を求めたところ,800であった。この油脂を構成する高級脂肪酸を示性式で示せ。また,この油脂400gに水素を付加する場合,最大何gの水素が付加されるか求めよ。
■金沢大学 (2011 医薬保健 人間社会 理工 一部改)
油脂に関する以下の問いに答えよ。原子量 H=1.0, C=12, O=16 とする。
問 分子量1096の油脂について以下の(1)および(2)の問いに答えなさい。
(1) この油脂137gに水素を完全に付加させるには標準状態の水素が5.6L必要であった。
この油脂1分子中には何個の炭素間二重結合が含まれているか答えなさい。ただし,油脂中の不飽和結合は二重結合のみとする。また,計算過程も示しなさい。
(2) この油脂を構成する脂肪酸は炭素数が同じである飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸である。この油脂の分子式を答えなさい。計算過程も示しなさい。
■
岐阜大学 (2013 医 工 応用生物)
必要があれば,次の値を用いよ。 原子量 H=1.0, C=12, O=16, I=127
計算結果は有効数字2桁で示せ。
油脂は,(a)グリセリン1分子と高級脂肪酸 ア 分子が イ 結合を形成したものである。
この高級脂肪酸には飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸があり,炭素数18の飽和脂肪酸としてはステアリン酸が,また炭素数18で不飽和結合( ウ 型二重結合)を1個持つものとしてはオレイン酸が,炭素数18で不飽和結合を エ 個持つものとしてリノール酸がある。不飽和脂肪酸を含む油脂では,(b)不飽和結合1個にヨウ素1分子が付加する。また,オレイン酸を多く含む油脂は,常温で オ であるが,この油脂にニッケルを触媒として水素を付加させると,不飽和結合が飽和されて固体となり硬化油となる。これはアルケンに触媒を使って水素を付加して,アルカンをつくる反応と同じである。 ウ 型二重結合を持つ油脂に水素を付加させる反応の過程では,副反応としてトランス型二重結合が生じることがある。これがトランス型の不飽和脂肪酸といわれるものである。
問1. ア ~ オ にあてはまる適切な語句あるいは数字を入れよ。
問2.下線部(a)について,グリセリンの構造式を書け。
問3.下線部(b)について以下の(1)と(2)に答えよ。
(1) ある油脂1分子は,オレイン酸が1分子結合し,他はすべてリノール酸が結合しているとすると,この油脂1分子にはヨウ素分子I2は何分子付加することができるか,答えよ。
(2) 上記(1)の油脂100gには,最大何gのヨウ素が付加できるか,答えよ。
■
岐阜大学 (2011 医 応用生物科 工 )
油脂に関する以下の問いに答えよ。原子量 H=1.00, C=12.0, O=16.0,
計算結果は特に指定のない限り有効数字3桁で示せ。
油脂を構成する脂肪酸の種類を決定するために以下の実験Ⅰから実験Ⅲを行った。
〔実験Ⅰ〕 油脂Xに水酸化ナトリウム水溶液を加えて加熱し,十分に反応させた。これに塩酸を加えて酸性とし,有機溶媒を用いて抽出したところ,脂肪酸Aと脂肪酸B(物質量比で1:2)の混合物Cが得られた。
〔実験Ⅱ〕 4.40gの油脂Xに触媒を用いて完全に水素を付加したところ,標準状態に換算して560mLの水素が消費され,油脂Yへと変化した。この油脂Yを実験Ⅰと同様に処理したところ,1種類の脂肪酸Dが得られた。
問1.13.2gの油脂Xをけん化するのに,2.00mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液を22.5mL必要とした。油脂Xの分子量を求めよ。
問2.1分子の油脂Xに含まれるC=C結合の数を求めよ。
問3.脂肪酸Dの示性式を示せ。
いかがでしたか?意外に手こずったのではないでしょうか?
本チャートは出題タイプを
Ⅰ.油脂の平均分子量を求めるタイプ
Ⅱ.油脂のけん化に必要なNaOHまたはKOHの量を求めるタイプ
Ⅲ.炭素間二重結合の数を求めるタイプ
Ⅳ.油脂に付加する水素またはヨウ素の量を求めるタイプ
Ⅴ.油脂の分子式または油脂を構成する脂肪酸の示性式を求めるタイプ
の5タイプに分類し,これ以上ないくらいにわかりやすく解説しています。
過去問題は,2010年~2013年までに出題された過去問題を徹底的に分析しました。これだけ丁寧にわかりやすく解説しているものは他にはありません!
日本で一番わかりやすい!
といっても過言ではないでしょう。
油脂の計算問題 完全攻略チャート&過去問解説集
(A4高級厚紙 全8枚+A4普通紙 全18枚)
800円
□収録出題校
岐阜大学(2011,2013年),金沢大学(2011年),熊本大学(2013年),弘前大学(2012年),埼玉大学(2013年),山形大学(2012年),信州大学(2013年),神戸大学(2012年),筑波大学(2011年),富山大学(2010年),北海道大学(2011年),名古屋市立大学(2011年)
商品は『恋する化学』から購入できます!
完全攻略チャートのサンプルを公開しました。
結晶格子に関する問題のチャート⑤(11枚の中の1枚)
溶液の濃度に関する問題のチャート①(4枚の中の1枚)
気体の製法と性質に関する問題チャート①(5枚の中の1枚)
アセタール化の計算問題のチャート③(7枚の中の1枚)
こちら(HP 恋する化学)よりご購入いただけます。
参考書は、下記DLマーケットにて販売しています。
【「くらべてつなげてまとめる無機化学」 第一部】
【「くらべてつなげてまとめる無機化学」 第二部】
【「くらべてつなげてまとめる有機化学」 第一部】
【「くらべてつなげてまとめる有機化学」 第二部】
↓ランキングが見れます。↓
にほんブログ村
にほんブログ村
きらめき★岐阜大
種子法廃止や種苗法改正でモンサント社のような外資企業に日本の種子が支配されるという恐怖感を拡散している方々がいる。山田正彦元農相や三橋貴明氏の懸念が本当ならば、農協を始めとする農業団体や農家が声を上げているはずである。今回の法廃止・改正について、農業に従事している親族や友人の実情を見聞きしたことも合わせて私なりの理解を紹介する。 「種子の選択」(種子法)
農家は、限られた所有農地を利用し最大限の利益を得る努力をする。収量と単価(品質)の積和からコストを差し引いた利益の最大化である。例えばコメの場合、その土地(風土や気候)にあった、より多くの収量と食味の良い品種を継続的に栽培する努力をする。最重要の選択は種子又は苗である。食味の良いコメは、ブランド米になる。ブランド(品種の特性)を守るためには、他品種や雑草の種子の混入がないこと、発芽率が高いこと、病害虫に害されていないこと、土地の気候に適していることなどの特性を維持しなければならない。品種の特性を守るためには、特定の圃場で十分な管理のもと種子用の稲を栽培して、栽培農家に配付(販売)する方法が取られる。これを「種子更新」と言う。栽培農家が販売用作物から種子を採取して翌年の栽培に回すことを「自家採種」と言う。自家採種を続けると、交雑種や特性劣化により、収量、品質が変化し、ブランドを守れず単価切り下げになる。
現実の栽培について調べるとH29年産の種子更新率が、全国平均で水稲88%、小麦92.1%であり、ブランド米栽培の北陸、東北、北海道に至っては、水稲で100%に近い地域がある。
一般社団法人全国米麦改良協会調査
http://www.zenkokubeibaku.or.jp/pdf/s/28-29.pdf 栽培農家は、都道府県が「奨励品種」認定を行った種子を農協経由で購入している。老齢化による労働力不足に対応するため、育苗された稲苗を購入することも増えている。さらに老齢と身体障害のため活動が困難になると、私の友人のようにコメの生産を地域の法人に委託することになる。自家採種して栽培を継続する農家が大幅に減少している。種子の生産・流通の実態については下記記事に紹介されている。実際に種子を生産しているのは、農業に従事している方々である。 AMネット 松平氏
種子法廃止で私たちは何を失おうとしているのか? ~おコメのタネ採り産地から考える~
https://news.yahoo.co.jp/byline/matsudairanaoya/20170503-00070555/ 種子法廃止では、都道府県の奨励品種認定の国の法律がなくなるだけで、特定の圃場で種子生産を行うことは継続される。一部の自治体では、種子法と同等の条例をつくる動きもある。都道府県認定→農協経由という固定した購入ルートのため、その地域の栽培品種が限定されることになる。タネ採りの注意と同様に、花粉の飛散による交雑を避けるため一定の地域において同一の種子を選択せざるを得ない。種子の栽培、流通については下記資料に説明あり。なお、農家が加盟している地域農協は、本業の金融事業だけではなく、種苗、肥料などの材料、資材などを販売するだけではなく収穫物の買取も行っている。つまり、農協が地域農業の運営を一元的に行っているわけで、山田元農相が叫んでいる「モンサントに支配される」状況は、農協が支配されないと実現出来ない。 山田元農相は4月24日の下記ブログ(種苗法)で「企業の利益の為に、農家が古来、代を繋いで必死に守ってきた種子を少し残しての翌年作付けする権利まで奪われるとは絶対に許してはならない。」と叫んでいるが、現実の農業生産においては、これまで説明したように、農家は収入を増やすためブランド種子を購入する傾向つまり更新率が高くなっている。「代を繋いで必死に守る」経済的な意味が無くなっているのであり、時代錯誤的な認識であると言わざるを得ない。 農林水産省資料(2017年)
主要農作物種子法について 13頁~16頁
http://www.maff.go.jp/j/kanbo/nougyo_kyousou_ryoku/attach/pdf/nougyo_kyoso_ryoku-19.pdf 全国農業改良普及支援協会・農作業便利帖
http://www.jeinou.com/benri/index.html 山田正彦ブログ 2017年11月23日
大変なことになります。(種子法廃止)
https://ameblo.jp/yamada-masahiko/entry-12332004567.html山田正彦ブログ 2018年4月24日
日本では野菜の種子等が自家採種できなくなることになりそうです(種苗法改正)
https://ameblo.jp/yamada-masahiko/entry-12371324968.html ひろさんのブログ(山田説への反論)
(種子法廃止デマ)なぜ日本の種苗企業を育てようという発想に行き着かないのか
https://hirohitorigoto.info/archives/286 「種子の開発」(種苗法)
種子法の廃止に続き、自家採種の禁止を含む種苗法の改正が話題になっている。特に種子法復活を叫ぶ方々(上記山田元農相ブログ)が、「自家採種の禁止」や「農業競争力支援法(8条4項)の公的機関の種子の育種知見の民間への提供」をモンサント等の外資を優遇するものだと、根拠のない不安を語っている。 自家採種禁止は品種を開発した方々の権利を守るもので、特許権や著作権などの知的財産権の扱いと同等である。最近平昌五輪でのエピソードがきっかけとなり開発品種保護の強化の必要性に気付いたからである。 2018年冬期オリンピックで活躍した女子カーリングのチームが休憩時間に食した韓国産イチゴが美味である発言したことに、齋藤農水相は、日本から流出した品種であること、無断流出を防ぐ対策が必要だと語った。
朝日 3月2日
韓国イチゴに農水相「日本品種が流出」カーリングで注目
https://www.asahi.com/articles/ASL324Q0QL32ULFA00R.htmlアゴラ 2月28日
カーリング女子の「韓国のいちごおいしい」発言の裏事情
http://agora-web.jp/archives/2031324.html 何年も交配を繰り返して開発した新品種の種苗の無断持ち出しで、それまでにかけた費用や努力が報われないことになる。特許権や著作権と同じように種苗の新品種を開発した方にはその権利を認め保護するのが当然である。その規定が「種苗法」である。開発された新品種は、国(農林水産省)に登録され、種子や苗の無断増殖や成果物の販売の禁止など開発者の権利を保護することが出来る。 種子や苗を栽培農家に販売した後、その農家が種子を自家採種、苗を接ぎ木・挿し木で増殖可能であることが問題になる。開発者の権利を守る方向に法改正を行おうとする動きを下記記事が伝えている。一部の活動家が「自家採種禁止」に反対を表明しているが、知的財産権保護に目を向けず、前記の「種子更新」の現実を理解しようとしない方々であると思う。なお、開発者は、民間人、企業、国や自治体の試験所などである。 日本農業新聞 5月15日
種苗の自家増殖 「原則禁止」へ転換 海外流出食い止め 法改正視野、例外も 農水省
農水省は、農家が購入した種苗から栽培して得た種や苗を次期作に使う「自家増殖」について、原則禁止する方向で検討に入った。これまでの原則容認から規定を改正し、方針を転換する。優良品種の海外流出を防ぐ狙いで、関係する種苗法の改正を視野に入れる。自家増殖の制限を強化するため、農家への影響が懸念される。これまで通り、在来種や慣行的に自家増殖してきた植物は例外的に認める方針だが、農家経営に影響が出ないよう、慎重な検討が必要だ。 自家増殖は、植物の新品種に関する国際条約(UPOV条約)や欧米の法律では原則禁じられている。新品種開発を促すために種苗会社などが独占的に種苗を利用できる権利「育成者権」を保護するためだ。 一方、日本の種苗法では自家増殖を「原則容認」し、例外的に禁止する対象作物を省令で定めてきた。その上で、同省は育成者権の保護強化に向け、禁止対象を徐々に拡大。現在は花や野菜など約350種類に上る。今後は自家増殖を「原則禁止」し、例外的に容認する方向に転換する。そのため、自家増殖禁止の品目が拡大する見通しだ。 同省は、今回自家増殖の原則禁止に踏み込むのは、相次ぐ日本の優良品種の海外流出を食い止めるためと説明。自家増殖による無秩序な種苗の拡散で、開発した種苗業者や研究機関がどこまで種苗が広がっているか把握できないケースも出ているという。中国への流出が問題となったブドウ品種「シャインマスカット」も流出ルートが複数あるとされる。 民間企業の品種開発を後押しする狙いもある。2015年の品種登録出願数は10年前と比べると、中国では2・5倍に伸びているが、日本は3割減。日本の民間企業は野菜や花の品種開発を盛んに行うが、1本の苗木で農家が半永久的に増殖できる果樹などへの参入は少ない。このため同省は、育成者権の保護強化で参入を促す。 仮に自家増殖を全面禁止にすれば、農業経営に打撃となりかねない。同省はこれまで、農家に自家増殖の慣行がある植物は禁止対象から外し、農業経営への影響も考慮してきた。今回の原則禁止に当たっても、一部品種は例外的に自家増殖を認める方針だ。 自家増殖の原則禁止は品種登録した品種が対象。在来種のように農家が自家採種してきたものは対象外で、これまで通り認められる。 昨年政府がまとめた知的財産推進計画では、自家増殖について「農業現場の影響に配慮し、育成者権の効力が及ぶ植物範囲を拡大する」と掲げている。
https://www.agrinews.co.jp/p44074.html 岐阜大学 福井先生の種苗法解説
https://www1.gifu-u.ac.jp/~fukui/06-4-02.htm 山田元農相は、農業競争力強化支援法第8条4項の公的機関から民間事業者への種苗の生産に関する知見の提供を「住友化学、モンサント等に提供することになっています。」と書き換えているが、この2社だけではなくタキイやサカタの大手や公的機関の生産委託先も含まれ、外資に種苗の知見が独占される訳ではない。知見提供は、知的財産権の提供であるため、当然有償で使用権の契約が行われるはずである。 農業競争力強化支援法は、老齢化に伴う生産能力の減少(耕作放棄地の増加など)と生産農家の収益増のため、事業再編・参入を促す支援、コスト削減支援、収益拡大のための販売支援を柱としている。第8条4項は、安価な種苗を提供することが目的で、民間事業者の参入と地域農協からの仕入れと販売までの支配からの脱皮が可能になる。
農業競争力強化支援法
第二章 国が講ずべき施策
第一節 良質かつ低廉な農業資材の供給を実現するための施策
(農業資材事業に係る事業環境の整備)
第八条 国は、良質かつ低廉な農業資材の供給を実現する上で必要な事業環境の整備のため、次に掲げる措置その他の措置を講ずるものとする。
一 農薬の登録その他の農業資材に係る規制について、農業資材の安全性を確保するための見直し、国際的な標準との調和を図るための見直しその他の当該規制を最新の科学的知見を踏まえた合理的なものとするための見直しを行うこと。 二 農業機械その他の農業資材の開発について、良質かつ低廉な農業資材の供給の実現に向けた開発の目標を設定するとともに、独立行政法人の試験研究機関、大学及び民間事業者の間の連携を促進すること。 三 農業資材であってその銘柄が著しく多数であるため銘柄ごとのその生産の規模が小さくその生産を行う事業者の生産性が低いものについて、地方公共団体又は農業者団体が行う当該農業資材の銘柄の数の増加と関連する基準の見直しその他の当該農業資材の銘柄の集約の取組を促進すること。 四 種子その他の種苗について、民間事業者が行う技術開発及び新品種の育成その他の種苗の生産及び供給を促進するとともに、独立行政法人の試験研究機関及び都道府県が有する種苗の生産に関する知見の民間事業者への提供を促進すること。
http://www.maff.go.jp/j/kanbo/nougyo_kyousou_ryoku/sienhou/attach/pdf/sienhou_hourei-7.pdf農林水産省の説明
http://www.maff.go.jp/j/kanbo/nougyo_kyousou_ryoku/sienhou/index.html (追加)
モンサント社の恐怖に遺伝子組み換え作物があるが、コメについては、花粉症に効果のある稲などの試験栽培は認められているものの、販売許可されているコメはない。麦については、全世界で栽培も販売も許可されていない。大豆やトウモロコシの遺伝子組み換え作物が飼料用として輸入されている。